君への想いも花を咲かせ
「ドレディアがいなくなった!?」
そういって訪ねてきたのは、マルチトレインで出会い仲良くなったトウコという人物だった。いやほんの数日前は赤の他人だったはずだ。トウヤは記憶の中をもう一度探ってみる。そう、確かに会ったことはない人だったはずなのに、現にトウコはトウヤの玄関で、ね、トウヤ君、お願いなんて言っているものだから、参ってしまう。トウヤは行き場を失った手のひらをとりあえず頭の上に持っていくと、目を輝かせているトウコから目を逸らし面倒臭そうに呟く。
「まあ……探してあげないこともないけど。てかなんで俺の家知ってるの?」
「うーん、勘?」
「勘って…こうしてても埒が開かないし、とりあえず外に出るか」
「わートウヤ君、ありがとう!助かる!」
そう意気込んで二人は出かけた。街は休日ということもあってか、とても賑わっていた。
自然すぎる立ち振る舞いと屈託のない笑顔は彼女―――トウコの戦い方にも現れているのだと思う。トウヤは数日前のことを思い出す。彼女は全て天性の勘とも言われそうな能力で対戦相手を次から次へと倒してしまった。
天然というか、真っ白である。
トウヤは隣を歩くトウコを一瞥して、ポケットに手を突っ込んだ。空は快晴だが、外の気温は白い息が出るほどには寒い。だというのにトウコは、さすがに上着は着ているが、下は白くて長い足を露出したままだった。
「寒くないの?」
「全然寒くないって!動きやすい方がいいよ。あっでっうちのドレディアなんだけど」
「うん」
「お花摘みにいったまま戻ってこないの」
「は?」
「だから、お花」
「じゃあその森に探しにいけばいいんじゃないの」
「もう行った」
「そう」
手持ちのみんなで探したけど、みつからなかったの。
トウコは溜息をつくと、続けた。そのポニーテールから覗く耳は赤くなっており、冷え切っているようだった。トウヤはそうか、と頷いたあとにそのことについて指摘する。
「まさか、それでずっと探してた?」
「うん。当たり前じゃない」
「それじゃ……トウコが風邪引くよ」
トウコ、と口から発した言葉にトウヤは驚いていた。そういえば、彼女の名前を呼んだのは自己紹介のとき以来だったかもしれない。トウヤは気まずそうに斜め下に視線を向ける。
トウコは大通りの中で不意に立ち止まると、トウヤの方へ振り返り視線を合わせて言う。
「名前。そんなに気にすることでもないのに…でも、ありがとう」
「…名前くらいで」
「あのさ」
「トウヤ、って呼んでもいいかな?」
「…いいけど」
そういえば、今までは君付けだった。自分はそんなことを気にも留めなかった。人の言葉に乗せられて初めて気付いた。トウヤは躊躇いがちに返事をした。
そうして。やはり彼女の身体が震えたのをトウヤは見逃さなかった。思わず、彼女の手を取る。キン、と張り詰めた冷たさが彼女の手から伝わってくるのを感じると、トウヤは来た道を引き返しはじめる。
「やっぱり、冷えてる」
「えっ?」
「身体に良くないよ。―――探すにしても、少し暖まってからにしよう」
「う、うん」
そう言ってトウコが手を握り返すと、トウヤは今更に自分のしたことを自覚した。とは言っても一度握った手を離すわけにもいかない。火照る頬はトウコに見えていないことにトウヤは安堵すると、急ぎ足で自分の家へと戻った。
二人は先ほどの階段を上った先の玄関に、小さな影を見つける。トウコはその影を捉えると一目散に駆けだした。
「いた!!」
やれやれとトウヤは遅れて階段を登ると、そこにはドレディアを抱きかかえたトウコが佇んでいた。そのドレディアはひとつの花束を抱えていた。
「いなくなったと思ったら、この子も君のこと、探してたみたい」
「…俺?」
「そう。お世話になったから、お礼にあげようと思って。これ」
トウコはドレディアから渡された小さな花束を手に取り、トウヤへと差し出す。
トウヤは断る術もなく、彼の腕の中にそれは収まった。
「あ、ありがとう」
「にしても、この子、どうしてトウヤの家わかっちゃったんだろうね」
「それは君もだけどね」
えへへ、と彼女は笑うと、それからまた少し震えた。これは本格的に風邪を引いてしまうかもしれない。トウヤはトウコを強制的に家の中へ入れると、家には誰もいなかった。外と同じ気温だが、とりあえず部屋の暖房をつけるとトウコを座らせる。
「温かい飲み物でも入れるから」
「ありがとう」
お湯を沸かしている間に、トウコ(とドレディア)からもらった花束を広げて花瓶に水を注ぎ、生けた。
「これって…」
その花言葉は、
(白っぽい桃色は彼女のようだと、)
***
やまだはなさんへ捧げます。
お誕生日おめでとう!!ございました!!
盛大に遅刻ですが、もらってやってください。
2012/02/17 水守