02. 本気



「お茶入れたよ」
「あーうん。じゃあそこに置いといて」

邪魔にならないようでいて溢れない定位置に熱い湯呑みを置く。
先ほどから視界にレイアの手が伸びているはずだが、ジュードは見向きもせずに机に向かって作業を続けていく。


人に追随を許さない集中力の彼が、返事をくれただけ今日はまだマシというべきか。
ジュードが私利私欲のために研究に没頭しているのではないと彼女も知っているが、いくらそうであっても少しだけ寂しい。
真剣に小難しい式に取り組む彼の横顔は自分のものとは比べものにならないほど大人びていて、厳しい目つきだった。
思わずドキリとしてしまう。
背も見下ろされるくらいになってしまったし、顔立ちも変わらないレイアとは違って日に日に精悍になってくる。
ジュードばかりが大人になっていくことに置いてきぼりにされたような気持ちになることは日常茶飯事だ。
ちょっとだけ、悔しい。

レイアは湯呑みを乗せていたお盆を脇に抱えると、不満げに呟いた。
たぶん、自分の呟きは耳には入らないだろうということを予測して。


「…ジュードってさ、いっつも私の扱いだけは適当だよね〜いや、いいんだけどさ!私の方がなんだかんだで片想い歴は長いわけだし…」
「……」

案の定、返事はない。
あっけなく無視されたレイアに、少しだけ悪戯心が芽生える。どうせ眉をひそめて何事もなかったかのようにされるくらいなら。
ごつごつした肩にぬるりと腕を回すと、そのまま引き寄せる。

「たまには、いろいろ気付いてほしいんだけど?」


すると、不意にレイアの腕が何かによって掴まれる。
黒い何かが彼女の視界から消え去ると、レイアに背を向けていたはずのジュードはこちらの瞳を真っ直ぐ捉えていた。
心なしか、口元には笑みを浮かべているようにも見える。レイアの腕は強い力で動きがとれなくなっていた。

「……あのさ、それ、誘ってる?」
「……っ!誘ってるも何も、見向きもしないのはジュードじゃない」
「レイアも気付いてないよね。自分がどれだけ無自覚かってことにさ。困るよ」
「そんなこと言われたって…!」

レイアの瞳には驚きと戸惑いの色が現れ、その身体は少しずつ後ずさりしている。
そろりそろりと下がるレイアを、ジュードは静かに追い詰める。


本気
(君は何もわかってない)
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