04. 幼馴染み

「ミラがわかんない」
「えっ」

何、と聞き返してレイアは思わず振り返ると、いつになく深刻そうな顔をしたジュードが立ち尽くしていた。
彼の腕の中には参考書が山ほど抱えられている。様子としてはは勤勉な彼には至って通常の光景であるが、いかんせん表情が地の底なために休むことを勧めたい。
そもそも、口に出しては言えないがミラがわからないことだらけなのはいつものことではないか。
ジュードのお節介もミラの前では体をすり抜けて当人の想いなどちっとも伝わってなどいない。
穏やかな笑みで礼を言われるだけで(それで十分な気がするが)彼が無意識に望むそれ以上の反応は返ってこない。
言われた当人が恥ずかしそうに顔を赤らめるだけである。

「何かあったの?」

無言の返事。
とりあえずたまにはお茶でもしない―――そんなレイアの提案が後々の大惨事に陥るとはこの二人には思いも寄らぬ話であった。

レイアとジュードの関係は家が近所の幼馴染み。
それ以上でもそれ以下でもない。よくある幼馴染みものでは恋愛関係になることも予想がつく組み合わせだが、お互いに心に決めた相手がいるため甘い雰囲気になることはまずない。
(レイアにとってはかつての片想いしていた相手ではあるが、想いは当の昔に冷めてしまっている上に年頃の羞恥心からか蓋をしたい一件でもある)
最近は想い人にデレデレ過ぎるジュードに苛立ちを覚えていることさえある。
あちらの想い人は学年を跨ぐとはいえ同じ生徒という立場だ。それだけ会う機会も多い。よってチャンスも多い。
こればかりは自分より上の立場の人間に惚れてしまったことを悔やむ。
だいたい出会ったタイミングが良すぎたのだ。失恋のクリスマスほど人間にとって心が弱っている時期はないと思う。

そんなわけで想い人―――アルヴィンの授業が一切ない午後からの授業をなんとか切り抜けた後、レイアは早々に教室から立ち去り下駄箱へ向かっている。
学校は郊外にあるので、街へ出るとなるとそうのんびりもしていられない。ジュードもそれが分かっているらしく、履き慣らしたローファーを突っかけて外に出ると待ち構えていた。

「じゃあいこっか」
「……なんかごめん」
「そんな風に謝られるとますます何が起こったか心配になってくるんだけど…」
「うん……」

定期をかざしてバスを降りるとまだ日は傾いておらず、人通りもそれなりにあった。問題ない。
万が一事情をよく知らないクラスメイトに会ったとしたら。それが噂になったとしたら。尾ヒレがついて担任の―――アルヴィンに伝わったりしたら。
散々からかわれるに決まっている。からかわれるのならまだいい。何か勘違いをされたとしたら。
そんな想像をしているのはレイアだけではないようで、隣にいるジュードも多少気にしてはいるようだ。

通り沿いに面したファミレスに入る。小洒落た喫茶店に入るお金があるほど学生の小遣いは多くはない。
他の友達何人かで来ることは何度もあったが、ジュードとレイアの二人きりというパターンは珍しい。
幼い頃から何かと二人一緒にいることは常だった。けれど、その周りには両親であったり他の友達であったり―――誰かしらがいたのだ。
かといってそのシチュエーションに緊張するわけでもなく、ただ黙々とドリンクバーのメロンソーダをコップに注いでいく。
ジュードも白いティーカップをテーブルに置く。
頼んでおいたチョコアイスクリームが運ばれれば、準備は完璧だ。


幼馴染
(「レイア、頭痛くならない?」「大丈夫大丈夫!」)
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