にかいめの恋
「ねえねえ、撫子ちゃんは、好きな男の子っていないの?」
クラスメイトからそんなことを聞かれたのがきっかけだった。無愛想でキツい性格だとある意味悪目立ちしていた撫子も、中学に入れば―――正確に言えば、あの課題授業が終わったあとから徐々に皆との距離は近くなっていた。エスカレーター式であるこの学校の良い点なのか悪い点なのか、周りにいるメンバーは変わらず人間関係もさほど変わらないのだが、それでも少しずつ前進しているように思えた。
そんなある日の昼休み。友達とお弁当を囲みながら、他愛もない話をしていたのが突然ある子の一声で変わった。俗に言う"コイバナ"というやつで。
「は?好きな子?」
「そう!好きな人、いないの?」
「撫子ちゃんって意外に男の子と仲いいし!顔もせっかく可愛いんだし…」
「あの鷹斗くんとも普通に一緒に帰ってるって聞いたんだけど?」
「……ええ」
えーっ、と歓声が湧き上がるのを見て教室にいた人間が全てこちらを向く。―――そんなことよりも。鷹斗と仲が良いという事実だけで嫉妬する女子もいたというのに、純粋な興味だけを向けられていることが撫子にとっては安心する出来事だった。好きな男の子、なんて考えたことも―――あったような、なかったような。撫子は課題授業が終わったあの日から何故か『恋愛』の文字を浮かべると少しだけ心の中がぼやけて、少し悲しい――どちらかといえば胸が締め付けられるような切ない感情に襲われるようになっていた。
忘れている、何かが激しく彼女を責め立てる。
「でもまあ、普通に考えれば理一郎くんよね」
「そうそう!撫子ちゃんには理一郎くんがいるものね…」
場の空気が元に戻ったあと、テンションも元に戻ったらしい彼女たちは決まり切ったことのようにそう言った。
「で、でも理一郎はただの幼馴染みよ?」
「どうだか。撫子ちゃんがそう思ってなくても案外相手はその気だったりしてね?」
「いやない!それは絶対ないわ!!」
そう撫子が声を張り上げて立ち上がると、ちょうど教室に入ってきた理一郎と目が合ってしまった。なんてタイミングの悪い。思い切り睨みつけると何故か不機嫌そうな顔で自分の席に戻っていった。
ほら、と誇らしげに見せると、彼女たちは顔を見合わせて肩をすくめると笑いはじめた。
「いや!それはね!喧嘩するほど仲がいいっていうじゃない?あれに近いのだと思うけど」
「てか、撫子ちゃんでもあんなに動揺することあるんだねー意外!」
「クールだと思ってたのに、撫子ちゃん」
「撫子でいいわ」
ちゃん付けだと面倒でしょう、ふと気がついた事実にそう言うと彼女たちの目がきらきらと光っている…ように見えた。
「うん!!ありがとう!」
「私たちのことも呼び捨てでいいから!」
そう彼女たちからぎゅっと手を握られた。
友達関係なんて、どうでもいい――ちょっと前そう思っていたはずなのに、胸が高鳴るのは何故だろう。
撫子の表情には、自然と笑みが零れていた。
「それでね、撫子。理一郎くんは"素直になれない"のよ」
「小学生の頃はただの取っつきにくい人だと思ってたんだけどね」
「撫子のことは人一倍気に掛けてるのが見え見えなのに最近気付いちゃったんだよねー」
「……まさか」
まさか。
まさか。
「そんなわけ……ないわよ」
彼女は口ではそう言ったものの、胸騒ぎが止まらなかった。
だってそれは、
にかいめの恋
(そんなわけないとおもったのは、だれなの?)
***
書いてみたくなったのでCZクリア記念に短文理撫。