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年中無休の宿。レイアは客のいなくなった部屋で次の客を迎えるべく、周りの物を整え、清掃作業に勤しんでいた。宿の方針で部屋の中を片付けてくれる人は殆どだが、それでもやらなくてはいけないことは多い。
アルヴィンはそれを少しでも早く終わらせることができるようにと手伝う。この仕事が片付いたら、一緒に出掛けようと約束したのが昨日の晩の話。

使用済みのシーツと洗って新品のように白いシーツを取り替えようとしたレイアは隣の机に無造作に置かれた本を不思議そうに見つめる。

「こんなのうちにあったっけ?」
「さあ…でもみたことねえ表紙だから、客の忘れ物だろ」
 
昨日泊まったの、どこかの作家だとか言ってなかったか、アルヴィンは合点がいかない様子のレイアにそう問いかけると、納得の表情で頷いた。

「でも、だとしたらこれ、届けないとマズくない?」
「大切なものだったら戻ってくるような気もするが…一応中身確認したらどうだ?」
「お客さんの物を勝手に読んじゃダメだよ」
「住んでる場所とかわかるかもしれないだろ」

アルヴィンはそう言い訳じみた口調で話すとおもむろにその本の表紙を開いた。レイアは知らないからね、とそっぽを向いたがやはり気になるようでアルヴィンの肩ごしから覗き込む。

「なんか恋愛小説っぽいな」
「そうだね。アルヴィン読んでよ」
「俺がそういうの得意じゃねぇってレイアは知ってるはずなんだが」
「そんなこと言ったら私も苦手だよ」

言い合っているうちに流れで次のページを開く。どちらも本を読み慣れていないせいかそのペースはゆっくりで、波長が合っているらしい。
そんなに分厚くもなかった本は、二人ともこの後の予定が頭の片隅に浮かび、最後の方は流し読みしたためか一時間もしないうちに読み終わる。
どこかの国のお姫様が、最初は王子様に一目惚れするが、悪い魔法使いにさらわれてしまう。王子様が助けに来て悪い魔法使いは倒されて、ハッピーエンドというどこにでもありそうなストーリーだった。
結局わかったのは"テルカ・リュミレース"という地名だけで他はさっぱりだったが、大事なものだったら取りに来るだろうということで本は宿で預かることになった。
フロントに届けに行ったあと、レイアは先ほどの部屋に戻ると、作業を続けていたアルヴィンに言う。

「これ、アルヴィンは絶対悪い魔法使いだよね」
「それじゃあレイアもお姫様じゃないだろ」
「えーそれはエリーゼみたいなお姫様じゃないけどさ」

「まあレイアみたいなのがお姫様じゃなくて良かったけどな」

アルヴィンは少し間を置くと、そう安心したように独りごちる。

「どういう意味?」
「レイアみたいのがお姫様じゃ悪い魔法使いは扱いに困るだろ…下手すりゃ倒される」
「随分と失礼な物言いだね」

レイアは廊下から取ってきた箒で掃除を始める。今日は手伝ってもらったので早く終わった。そう感じつつも先ほどの言葉から素直に感謝をする気にはなれず、ふて腐れたように部屋のごみをかき集めていく。箒が擦れる音と話し声だけが日光が差し込む部屋に響く。ル・ロンドの町は都会の喧噪とはかけ離れて、静寂に包まれていた。レイアは口を閉じてアルヴィンが語り出すのを待った。

「素敵な王子様もいたことだし」
「だれ?」
「ジュードだよ」
「ジュードは違うでしょ。どちらかというとミラの方が…まあ二人に怒られそうだけど…それに」
「…そういう意味じゃねえよ。それに?」

まあジュードとレイアは王子様お姫様云々より、幼馴染みと結論づける方が合ってるか。アルヴィンはそう思い直すと、レイアの話の続きに耳を傾ける。

「さっきもアルヴィン言ったけど、悪い魔法使いは、あっちのお姫様たちには頭が上がらないみたいだから」


「何?」
「まあ、私が慰めてあげても…ってちょ、アルヴィン?」

カラン、と箒が手からするりと抜け床に落ちる音がする。

「言ったな?」
「じゃあ存分に励ましてもらうとしますか、お嬢ちゃんに」
「えっちょま……んっ」




***
帰省中のジュードが二人を訪ねてくる一分前。