世界を変えた出来事を起こしたとはいえ、自分たちのギルドがまだまだ新米なのには変わりない。カロルはそれを少しでも大きくしようと日夜張り切っていて、とにかく依頼をこなしてばかりの毎日だ。もちろん自分もそれに協力したいとも思うし彼の成長を微笑ましく、頼もしく思えるのも事実なのだがとにかく忙しすぎて時の流れを忘れてしまう。
それでも毎日つい数ヶ月前までいつも隣にいたエステルを思い出す。彼女と同じ年格好の女と出会ったり、他の絵本作家の依頼を受けに行ったりする時……自分の思考とそぐわないのはわかっているが何でもない時にも、だ。
そしてついに取れた1日分の休暇。何に時間を当てようなんて考える隙もなく自分の頭の中には彼女が占拠しはじめた。行く先はひとつ、決まっている訳で。傍らのラピードも仕方のない奴だなという顔で自分を見て、首を縦に振った(ような気がした)。
彼女の家の前に立つと、いかに年月が経ったのか思い知らされた。新築でひときわ目立っていた彼女の家が今ではすっかり街に馴染み、周りの建物と同じように屋根にたくさんの花びらがついている。春だったはずの季節が、これから寒さに向かう秋になっていたことにも、今更気がついた。
そんな変化は自分をよりいっそう緊張させるのに十分だった。彼女は自分を忘れてはいないだろうかとか、嫌われてはいないかとか、らしくもない想像が次々と浮かんでくる。こうしているうちにも残り少ない時間は残酷にも消費されていく。覚悟を決めた。
呼び鈴を鳴らす。ノックでは彼女が本を読んでいたときにどう考えても聞こえないし、聞こえなくて知らない誰かに扉を開けられては危険だからと自分が遠回しに薦めたのを思い出した。
「どちら様です?」
ドア越しからなのか、それはわからないがくぐもった小さい声がした。
「オレだよ。ユーリ・ローウェル」
ゴトリと、分厚い辞書のようなものが落ちる鈍い音が聞こえた。慌てて拾いあげているような忙しない音のあとに、無感情な空白の沈黙。
「……!ユーリ…なんです…?」
「ああ、そうだ」
「…ちょっと……ちょっと待って下さいね、ほんの少しでいいですから」
声で伝わるその表情
(彼女が泣いているのなんて、ドア越しにでも分かった)
ユーリを描くのが久しぶりすぎて…><切ないユリエスです。
[2011年 03月 22日]