※大人ソフィ設定です、ご注意下さい。
Happy discovery
久しぶりの王都はあのころからさらに王、リチャード陛下の政策やその他諸々の影響を受けて変わったような、気がした。
壁に貼られたリチャード陛下のポスターが、それを端的に表している。『ファンクラブ会員募集中!』と女性らしい丸みを帯びた字ででかでかと書かれた張り紙が、横ではその会員とやらが街をふらふらと歩き回っている。少なくとも、王位継承権で揉めていた時期にはなかったうるさすぎるくらいのにぎやかさがバロニアにも戻ってきているようだ。
オイゲン総統から頂いた久しぶりの休暇はウィンドルで過ごそうとやってきたはいいものの、ラントにはアスベルをはじめとしたラント一家が不在で(留守はしっかりフレデリックが守っているそうだ)それならばと訪れたのがバロニアだった。
ファンクラブの会員たちが声を荒げた。少しのことでも騒ぐのだろうとは思うが、何事かと聞き耳を立てると意外な言葉が入ってきた。
「陛下に恋人が出来たそうよ!!」
「嘘でしょう?嘘だと言って!」
「…お忍びでここを歩いていたのに気付いた人がいるんだけど、若い女の人と歩いていたって…」
「……そう…なの…」
そのやりとりに滑稽なものを感じるが、一番先に表れたのは二つの疑問だった。まず、あの陛下が恋人と歩いているところを見つかるというヘマをするだろうか、という疑問。そしてあの陛下に今恋人をつくる暇があるかと聞いたら―――答えはたぶん、ノーだろう。
立ち止まって少しだけそんなことを考えたが、そうこうしていると若い女を見る怪しい男になりかねないのでとりあえずその場所を離れることにした。
***
「あ、教官!」
それからすぐに何者かに呼び止められた。自分のことを教官と呼ぶ人間もそう多くはない。声の主はすぐにわかった。
「シェリアか、久しぶりだな」
「お久しぶりです。こっちに戻ってらしたんですね」
「ラントにも寄ったのだが、誰もいなかったものでな」
あ、そういえばそうですね…とシェリアは今までにあったことを思い出すように一つずつ理由をあげていった。その物腰はやはりラント一家の支えになっているに違いない。
「今アスベルはヒューバートのところになにか外交の用があってストラタへ行ってしまいましたし、私もこちらに買い物に来てて…ソフィも一緒なんですけれど、今は別々に行動してるんです。ご足労をかけてすみません」
そう言ったシェリアは少し寂しそうに見えた。アスベルも公務なのはわかるが、ヒューバート、実の兄弟への用であるのだから、肩筋を張らずに二人を連れていっても良かったのではないかとも思う。まあそんな考えを言う当の本人はストラタに行ってしまっているが。また今度会ったときにでも話してみることにしよう。
「いや、それはいいのだが…さっきの噂、聞いたか?」
「はい…リチャード陛下に恋人なんて信じられないですけれど、一緒に歩いていた女性は誰なのかは気になります」
「そうか。直接本人に聞くという手もあるが…あの陛下のことだろう、きっと上手くごまかされるに違いない。聞く前に情報収集が必要だと思うがな」
「私もソフィと落ち合うまでまだかなり時間がありますし…」
「決まりだな」
教官が若い女の子に話しかけたら犯罪ですから、ときっぱりとシェリアに断言され立場のない俺は商店の主人やバーのマスターに聞いてみることにした。シェリアは先ほどのファンクラブの娘に話を聞きに行った。そんなに俺は老けているのだろうか、40才前半だが…と軽く落ち込んではみるものの、好奇心が勝ったので聞き込みを続けることにした。
「どうでした?」
「バーのマスターはそんな人はいないと断言していたな。一緒にいた女性の情報は道具屋の女主人が、長髪の女らしいという話をしていたが」
「こちらもまったく同じです。長い髪という以外は文句を言うばかりで正直疲れました」
いくら若い彼女でも、あの悲鳴は堪えるのだろう。見境無く叫ぶ姿はみっともないが、あれはあれで本人たちが楽しいのだから仕方ない。しかし、長髪の女――それは陛下のことを言っているのではないかと一瞬思ったが、まさか陛下が実は二人だったとかいうビックリ展開でもないだろうと打ち消した。
「……ご苦労だったな。そういえば、ソフィとの待ち合わせはいいのか?」
シェリアは腕時計を一瞥すると、首を傾げ考えこんだ。
「あっそうですね…まだちょっと早いですけれど、行きましょうか。アイスキャンディー屋の近くで待ち合わせなんです、食べて待ちませんか?」
「おっそれはいいな」
アイスキャンディー売り場に行く途中で、目的の人物を早々に見つけてしまった。
「なあ…あれは」
「ちょっと答えが出たような気がするんですが」
それはリチャード陛下と一緒に歩くソフィの姿だった。一連の事件で容姿が子供から大人になったソフィはなるほど、長髪の女性という表現が似合うかもしれない。本人達はそのつもりはないのかもしれないが、お似合いの二人とも言わざるを得ない。
***
「リチャード、今日は付き合ってくれてありがとう。忙しいのにごめんね」
「いやいいんだ。僕もちょうど誰かと息抜きをしたかったところだし」
ついこの間まで背は自分の肩には届いていなかったのに、髪も下ろしてはいなかったのに、なによりこんなに大人ではなかったのに。
大人になった瞬間には感じなかった少しの違和感(決して悪いものではない)が僕を支配する。ふふと笑うその仕草に、落ち着きと余裕は感じられるようになっただとか、無邪気に笑っていただけの彼女が淡い微笑を覚えたりだとか。
今日は久しぶりに王都に来た彼女に、バロニアの新しい名所案内をしていた。アイスキャンディー屋二号店が出来たこと、騎士学校にたくさんのストラタやフェンデル出身の教師が来たこと…話題は尽きなかった。
そんな街中を歩く中でももちろん顔は隠していた―――はずなのだが、王都の中を駆け巡る噂はそれよりも一枚上だった。
そのうちに少しずつ行く先々でついてくる者が出てきてしまった。もう広がるのは時間の問題だろう。ソフィの言うシェリアさんとの待ち合わせの時間はまだまだ先だが、こうなっては仕方ない。
彼女は少し残念そうな顔をしながらまた、笑顔だった。こうして変わらない一面を見せてくれることも嬉しかった。
「リチャード、本当に大変だね。公務頑張ってね」
「ありがとう。それでもこうして大切な仲間がいるから頑張れるんだ。ソフィのおかげだよ」
そういうと少し照れくさそうにお互い様だね、と言った。またこの感覚。僕自身が追いつけていない感覚―――これは一体、何なのだろう?ソフィに余裕が生まれても、逆にそれに浸食されるように僕には余裕がなくなっていく。
「あ、シェリア……と教官?」
後ろから見つかってしまったか、と小さく声が聞こえた。どうやらこの二人も後をつけていたらしい。声をかけるようにもかけられなかったが正しいのか、どちらなのか。
「ご無沙汰しております、陛下」
「シェリアさん。アスベルは今ストラタかい?」
「ええ。張り切って出かけていきました」
「そうか…」
どうしてアスベルはシェリアさんとソフィを連れて行かなかったのだろう。あの親書はそこまで肩筋を張ったものではなかったはずだ。手紙――に近かった気がする。いやあの親書も親書というのは…。シェリアさんにしっかりとした表情の裏に少しだけ影が見える。アスベルにはだいぶよくなったと思うが、女性への配慮というものを忘れてはならないと思う。
マリクはといえばさきほどから意味ありげな目でこちらを見ている。口を開いて言うことはなんとなくわかった気がした。
「それにしても陛下も隅には置けませんな」
「何のことかな」
「いや、なんでもないですよ」
ソフィが少し首を横に傾けた。彼女のすることがいちいち気になるなんて、今日の僕は少し焦っているのかもしれない。
後日、デールが噂を耳にし、僕の元へ伝わったときにあることに気がつくのだが、それはまた、別の話。
去年に引き続きお世話になっているあまみやさんへの捧げ物です!
お誕生日おめでとう!これからもよろしくね!
あまみやさんのみお持ち帰り可とします。
[2011年 07月 15日]