朝、目が覚めた。
時計は丁度いい頃合いをさし、朝日がカーテンの下から顔を覗かせている。
まだベッドの中に後ろ髪を引かれながらも両足を地に着け、そのまま起き上がった

のだが。


目線がおかしい。

見慣れた自分の部屋。いつも起き上がるときはそれこそ天井が届くくらい目線は上になるはずなのだ。
なのに、今日は丁度窓の中程から上にかけてしか見えない。
これは一体どういうことか。
身長が低くなった?いやまさか。
一晩でこんなに縮んだら、そんなのどこかの童話の魔法使いしか出来やしない。
とりあえず疑問を持ちながら、鏡の前に向かった。

だが、オレはまだ知らない。

そこには、驚愕の光景が広がっていることを。


「うわああああああああああああああああ!!!!!!」







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とりあえず、今の状況を整理しよう。



さっきから気になっていた身長。
いつのまにか低くなっている。

髪の長さ。
その身長にあった長さになっている。

―そして、顔。
はいつもと殆ど変わらない。

けれどこの容姿は、世間的に見れば


女、じゃないのか。

いや、思い出したくないが長身の女と間違えられたことだってあるのだ。
この姿で街を歩いたら間違いなくこの姿を男という人はいないだろう。

何故こんなことになったのか。

見当もつかない。
これは夢か。それにしても嫌な夢だ。

頬をつねってみるが、そこには鈍い痛みだけしかない。






コンコン、と。


ノック音がした。外にはおそらく二人分の足音。
さっきはいささか大きな声を出しすぎたか。
とりあえず、今のがバレると非常にまずいことになる。

ベットの中に潜り込むと、布団をかぶり寝たふりを決め込むことにした。

「ユーリ、入るわよー。」

声からするとリタともう一人の誰か。
聞き慣れた足音。歩き方からすると女性だろう。
でもなんでリタがこんなところにいるんだ。

「寝たふりしなくったっていいわよ。あたしには全部分かってるんだから。」

『全部』分かってる、だと。
この姿になった理由を知っているのか。
それよりも、この姿はやはり他人にも同じように見えるのか。

一抹の不安をかかえながらも布団を少しずつ目の高さに持っていく。

「リタ………とジュディス?」

さっきは驚きで気づかなかったが声の高さが異様に高くなっている。
女声、という奴か。

「あら、本当にそうなってるわね。」

「ここまで可愛くなるとは想像してなかったわ………」

「おい……一体どうなってるんだよ……?」

怒りと疑問を含んだ声を発するが、それはたとえて言うならば小動物が威嚇するような声でしかない。
それこそエステルのような、不思議な気分―どころではない。
さっきから二人は楽しそうにどんな服を着せたら可愛いと思う?
うーんこういうのが似合うんじゃないかしら、などと呑気に話し合っている。本当にそれどころじゃないのだ。
今ならカロルの気持ちが分かる。男のプライドも何もない。

「ああ、説明するの忘れてたわね。」

「どういうものか分からないけどミョルゾから魔術書がでてきたんですって。引っ越しのついでに引き取り手がないから持って行けと言われたんだけど、私は魔術が使えないからリタならと思って。」

「それを解読してみたのよ。そしたらとんでもない魔術だってことが分かったの!魔導器ないから使うの大変だったけど、なんとか出来たわ。」

「その結果がこれってことか。」

そんな理由でか。要するにオレは実験台か。
まあ、この二人ならやりかねないことだが……。

「いや、クリティア族の人ってつくづく尊敬するわ。興味を持てばなんだって研究するんだもの。女装なんてそういう趣味を持った人がいたのかしらね。あ、ちなみに効果は一日に切れるから心配しなくていいわよ。」

「いや、そういうことじゃなくて………なんでオレなんだよ。」

リタは悪びれもせず、じろじろとこっちを見る。
ジュディは含みを帯びた笑みを浮かべている。

「だってカロルじゃ面白くないってジュディスが言うし、おっさんじゃどう見ても無理だし。」

「前の話もあったから、ユーリがいいと思ったの。」

いいと思ったの、じゃねぇ。
こっちの精神的ダメージがどれだけか考えたのか。

「まあいいわ。どうせその美貌なんだし、街にでも出てきたらどう?」

「それもいいわね。服はこれよ。」

毎度用意がいいジュディはさっと服を渡す。もうどうにでもなれ。
いつのまにか朝日は昇りきり、昼の装いに変わり始めている。
帝都は下町といえども人の動きは盛んになる時間帯だ。






ジュディから渡された服は彼女の趣味にはなっておらず、
露出が少なかったのが唯一の救いだと思った。

二人はいつのまにかいなくなっていた。
手早く着替え、時計を見る。
出かけるには良い時間だが、街に出たところで何をするわけでもない。

外に出ようとしたところで一つ考えた。
剣はどうするか、である。
街に出たところで一般女性らしき人が剣をぶら下げて歩いていたらどうだろうか。
ジュディみたいな『いかにも戦士』という感じはしない。
エステルのような高貴そうなご身分ではない。

けれど、やはり落ち着かないので剣は出来るだけそれっぽく見えないように持って行くことにした。










下町を堂々と歩くとさすがにまずいので顔を隠しながらなんとか脱出に成功した。
手には隠し持っている剣と、財布をポケットに入れているのみ。
殆ど手ぶらの状態なのだ。
とにかくする事がないのだ。

丁度今日はギルドの仕事もない。
リタとジュディはそういう日を狙ってきたのだろうが。
休みの日は大抵このように暇か、寝てることが多いのだ。
―しまった、あまりのことに忘れてた。
休みの日は昼過ぎになるとエステルが来るのだ。
家事をしてくれたり、話していることもあるし、菓子を食べることもある。
そして、最後にまた暇な日を教えて別れるのだ。

勿論、こちらからお姫さんにちょっかいを出しにいくこともあるけれど。
本当なら今頃彼女はオレの部屋のドアをノックしているところだと思う。
彼女との約束は一度だって破ったことはなかったのに。
悲しむことだろう、彼女は人以上に人の痛みが分かるかわりに人以上に傷つきやすい。


彼女は今頃落胆しているだろう。

約束を破ったのだ。彼女はきっと気にしないふりをすると思うけど。



ぼーっと、歩きながらそんなことを考えた。





ゴン、と。



誰かに思い切り後ろからぶつかられた。
勢い余って前のめりに倒れてしまった。
普段の体ならこんな失態はしないと思う。

「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

多少の擦り傷はあるが大丈夫だろう。
それよりも、聞き覚えのある声に驚いて振り返るとそこには『彼女』がいた。

「え、いや大丈夫です。貴女こそお怪我はないですか?」

「………?」

「?どうかされましたか?」

やばい。
これは気づかれたか。
口調もそれとなく変えたつもりだったのだが。
いや、自分がここまで女のふりをできたのはむしろ驚きなのだ。
演技力があるのだろうか。
いや、大魔王だしなぁと我ながらバカなことを考えている。
彼女は何か考えているようなそぶりを見せると何かを思いついたように、

「ごめんなさい何でもないです。本当にごめんなさい!」

「別になんとも思っていないんで別にいいですよ。ぼーっと歩いていたこっちが悪いんだし。」

「あ!服擦り切れてるじゃないですか!ごめんなさい……弁償します!」

エステルは突然のことにパニックになっているらしい。

「あ、別に大丈夫です。貰い物なんで。」

ジュディが選んだものだし、明日になればこれを着ることもない。
どちらかというと約束をすっぽかしたオレが悪いんだし。

「で、でもお詫びに何かさせて下さい!」

「いや、そこまで厄介になるわけには……」

普通の人なら道端でぶつかった赤の他人にそんなこと言わないだろう。
彼女らしいなぁとは思ったが同時に彼女には本当に悪いことをしたという罪悪感。
オレって最悪じゃないのか。
約束をすっぽかした当人に謝らせているという。

「何かしないとすまないんです!何かさせて下さい!」

「あ……じゃあお言葉に甘えて……」

ここは彼女の誠意に答えるのが一番だ。
彼女は知らない誰かのためにも必死になる。
一度決めたら絶対に譲らない。
それがいいところでもあるのだが、同時に騙されやすいという欠点を持っている。第一、オレじゃなくてどこかの怖そうなおっさんだったりしたら大変だったと思う。
ひとまずぶつかったのがオレで良かった、と思うことにしよう。

「あ、本当ですか!ありがとうございます。ところでお名前は何とおっしゃるんです?」

あ、しまった。
そこまで考えてなかった。
ユーリという名前は女でも男でも通用するが、それではさすがのエステルにも気づかれてしまう。
別の名前を使った方がいいだろう。

「ユ………ユウナです。貴女のお名前は?」

良い切り返しだったと思う。
架空の人物『ユウナ』はエステルの名前を知らない方が普通だからだ。

「エステリーゼです。あ、でもエステルって呼んで下さいね!」

「エステリーゼ………良いお名前ですね、エステルさん。」

「ユウナさんも良いお名前ですね!あ、それとエステル、って呼び捨てにして下さい。」

まあ、咄嗟に考えた名前にしては自然過ぎるほどだ。
いや、でも初対面だし呼び捨てにするのはまずいか、あ、でも呼び捨てにするべきか。
なんて色々考えているうちに、では行きましょう良い喫茶店を知ってるんです、と言ってきた。
なにそれ聞いてないぞ。少なくともオレの中では。


甘いものお好きですか?、ええ大好きですよ、と言うと彼女は太陽のような笑顔を振りまいた。







「ここです。」

と言ったその喫茶店には見覚えがあった。よく彼女が持ってくる菓子の袋に書いてある店名だ。・・・成程、ここは男性が入れそうな空気ではない。
どうりでオレをここに連れてこない訳だ。彼女なりの配慮だったのだろう。

中に入るとスイーツ特有の甘いにおいが漂ってくる。こういう店に気兼ねなく入れるのは女性の特権かもしれない。
確かにこういうことで不便な思いをしたのは一度や二度ではない。
この姿のこの部分だけでは悪くないなぁと思った。あくまでこの部分だけだが。

二人がけのテーブルを見つける。人気店らしく席を探すのも少し時間がかかった。
何にします?、とエステルは聞いてくる。なにを頼んでいいかも分からないので、彼女にエステルが決めて下さい、と言うと適当なものを選んでくれたらしい。
コーヒー派です?紅茶派です?と聞かれたので好みのままコーヒー派ですと言うと、分かりました、と言ってそれを頼んだらしい。

しばらくたつと注文したものが届いた。
シフォンケーキを頼んでくれたらしく自分の手前にはそれがきた。彼女はミルフィーユやらショートケーキやら・・・と沢山のものがきた。ユウナさんもいかがです?、と言われたので少し分けてもらうことにした。こういうところに遠慮はいらないらしい。

これくらいならバレないだろうとコーヒーに角砂糖をかなりの量入れ、すすっていた。

「ふふ、ユウナさんってわたしの知っている人に凄く似てます。」

まあ、オレ自身だから仕草などが似てしまっているのは仕方のないことだろうと思いつつ細心の警戒を払うことにした。
黙っているのもおかしいので聞いてみることにした。

「どんな人なんですか?」

よし合格。もうこれはオレに与えられた試練だと思うしかない。

「男の人なんですけど……凄く甘いものが好きでユウナさんのようにコーヒーに角砂糖を沢山入れて飲むんです。凄くおいしそうに飲むのでそれでいいんですけど。」

「へ、へぇ…………そうなんですか。」

「でも、素敵な人なんですよ?ちょっと皮肉屋なところもあるけど根は優しくて、何かのために凄く一生懸命なんです。」

オレについてそういうふうに思っていたとは、と新たな発見をした。なんだか変な気分だがとりあえず手前にあるシフォンケーキに手をのばすと、控えめな甘さとシナモンの風味が口の中で広がった。何とも言えない幸福な気分。やはり出来たては違うな、と思いつつ彼女の話に耳を傾けた。

「けど………」

そう言うと今まで幸せそうに頬張っていたミルフィーユを食べるのをやめ、真剣な眼差しで言ってきた。

「今日、彼の家を訪ねたらいなかったんです。忘れちゃってたんでしょうか、でも今まで一度もいないことなんてなかったのに………もしかしたらわたし、嫌われちゃったのかもしれません。なんの連絡もないなんておかしいです。何度も何度も休みの日になっては訪ねていってましたから。しつこかったんでしょうか・・・。」

泣きそうになる彼女はうつむき、本当に真剣な眼差しで言ってきた。
考えればやりようなんていくらでもあったのだ。たとえば、出かけるときにメモを置いていくことだって出来たはずだ。
急に仕事が入った、とかそれだけでも彼女の悲しみはやわらいだはずなのに。
どうしてそこまで考えられなかったのだろう。彼女のことをまるで考えてあげられなかった。思い出すことさえ出来なかった。
ただでさえ・・・オレはアイツのことが好きなのに。

「わたしはっ・・・!きっと彼のことが好きなんですっ・・・。けれどわたしは彼のことを考えてあげられなかった・・・!それが一方的な好意の押しつけだったとしたら・・・」

「!」

「そんなことない。」

「どうしてそれを言い切れるんです・・・?」

「だって、それまで一度だっていなかったことなかったんでしょ・・・?
一度も忘れてなかった。貴女のことが嫌いならもうずっと前にすっぽかしてるはずよ?
貴女の言い方だと随分前から知り合いのようだし。」

「彼は忘れただけよ。本当に。試しに明日、会いに行ってみればいいのよ。エステルの都合が合えば、だけど。」

「でも、彼は………」

「大丈夫。彼だってきっと申し訳なく思っているはずよ。会いに行ったところで迷惑がられることなんてないと思うわ。」

「そう…………ですよね。先走って訳の分からないこと言ってしまってごめんなさい。」

とりあえず、謝る日を約束できた。とりあえずジュディスがいいって言えば大丈夫か。いや、こんなことになったのはあいつらのせいなんだし。それにしても自分がこんなふうに女の話し方で話せたとは凄い驚きだ。もうオレって才能あるんじゃないのか。






それから彼女とは他愛のない会話をし、時間はあっという間に過ぎていった。







「じゃあ、私はこれで………ごちそうして頂いてありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそ相談にのってもらって……もともとはわたしが悪いのにありがとうございました。」


では、と言うとすぐにその場を離れた。女のふり、というのも疲れる。






とりあえず今日は早く寝よう。明日目が覚めたら普通に戻っていますように。



                                    




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会話文だけの翌日


「おはようございますっ!ユーリ。」

「あ、ああおはよう。昨日は悪かったな。急用が入ったんだ、連絡もなしにすまなかった。」

「いえいえ、全然気にしてませんよ。そのおかげで昨日は、素敵な人と出会えました!」

「………。」

「ユウナさんといってですね・・・あれ、どうしましたユーリ?」

「いや、何でもねぇ。」

「また会えるといいです!あ、今日はお仕事ないんです?」

「昨日特別任務が入ったおかげで、今日は休みだとさ。」

「?何です?その特別任務って?」

「秘密、だよ。」

「むぅ………やっぱりユーリは意地悪です…………」

「意地悪で結構。さーて、メシにするか。」

「あ、はい!そうですね。」



                                  THE END?

*   *   *


随分前に書いた作品。
        とりあえず置いておきますが、後で削除するかもです…!

[2010年 05月 10日]