まだ、果てしなく遠いけれど。
Vega
こんな夜空を見たのは何時以来だっただろうか。
脳裏に浮かぶのは、あのまだ星喰みが空を支配し、まさに世界をも支配しようとしていた頃。
それでも、隣には彼がいて、戦いのその先の未来に思いを馳せれば、その夜空は今まで見た中で一番輝いて見えた。
今日はこの世界で一番星が輝くとされている日だ。
俗に言う「七夕」というものらしい。短冊に願い事を書いて、それを笹に吊し願いが叶うようにと願う。
昼間、ハルルの子供たちはそれぞれの短冊に思い思いの願い事を書き、ハルルの樹の近くに生えた大きな笹に吊していたようだった。
男の子は将来の夢を願い、女の子は好きな人のことを願い、丁寧に作られた飾りと共に短冊に想いを託す。
そんな光景を微笑ましく思いつつ、わたしはその「七夕」のお話の絵本を読んであげることにした。
切なく、そしてどこか神秘的な物語に子供たちはこれから夜空に映し出される星のようにきらきらと目を輝かせていた。
その後、わたしは子供たちに短冊を渡された。
どうやら町の人全員が書くことになっているらしい。
旅でお世話になった宿屋のご主人の名前や、町の長の名前を見つけた。
『ユーリに、みんなに会えますように』
それが、わたしの書いた願い事だった。
それを見た子供たちの笑顔を見る度に、この世界を、人を、守って良かったと思う。
だからこそ、またもう一度彼に、仲間たちに会いたい。
彼は、わたしに色々なものを見せてくれた一番最初に会った人だから。
会って、またこの世界の素敵なところを探したい。
わたしの知らないものはまだまだこの世界に沢山あるのだから、仲間たちと分かち合っていきたい。
ふう、と一息をつくと外からは歓声が上がっていた。
窓の外を見ると、夜空の真ん中に星の大河、天の川が横たわっていた。
うわぁ、と思わず声が漏れた。
いてもたってもいられず、気がつくと家を飛び出していた。
必死にハルルの樹のところまで走る。まだ暫く消えはしないはずなのに。
夜空に輝く星に、歓声を上げる子供たちに、飾られている短冊に、心がふんわりと温かくなる。
そこでふと短冊が昼間よりいくつか増えていることに気がついた。
その中に"ユーリ・ローウェル"という名前がある。一瞬何が起こったか分からなかった。
その瞬間、背後に誰かがいるのにわたしは気づく。
「ユーリ!?」
「正解」
振り返ると、まさしく彼がそこに立っていた。
「え、ゆ、ユーリどうしてここにいるんです?ギルドで忙しいはずじゃ……」
「どっかの大先生がこの日ばかりは休みをくれたんだよ。というか首領も誰かさんとの約束があったみたいだけど」
「ふふふ、カロル、上手くいくといいですね」
「ま、そうだな」
「久しぶりだな、エステル」
旅の後、特に何の約束もしないまま過ぎていった数ヶ月。
あの頃は毎日一緒だったのに、今ではそれぞれがそれぞれの方向に進んで行っているというのだから驚きだ。
わたしもハルルへの引っ越しを済ませ、公務をしながら絵本執筆をしたりとなかなか時間がとれない日々が続いている。
寂しくない、と言ったら嘘になる。
けれど、みんながそれぞれの方面で頑張っているということは自分にとってとても励みになるし、時々流れてくる噂を耳にすれば嬉しくなる。
「はい、そうですね。元気にしてました?ユーリも、ジュディスも、カロルも、ラピードも」
「ああ。そっちはどうだ?」
「はい、わたしも元気でしたし、時々来るリタやフレンも元気そうにしてましたよ?」
「おっさんとパティは…まああの二人は大丈夫そうだし」
「…そうですね…。あ、そういえばユーリは願い事に何を書いたんです?」
そう言うと、ユーリはその短冊を手で隠し、
「まあ、それは内緒だな」
「むう…わたしのも…あ、見ましたよね……ユーリは本当に意地悪です…。少しだけでもいいから直って欲しいものです」
「それはエステルが生きてる限り無理だな」
「もういいですー!」
「みんなに、会えるといいな」
「そうですね。あ、でもわたしの願いってもう半分叶ってしまったんですね……」
「いいじゃねぇか、それでも。まだ楽しみは残ってる訳だし」
「……はい!」
エステルは精一杯の笑顔で笑った。それが彼に出来る唯一の仕返しだと思ったから。
でも彼女は気づかなかった、彼がわずかに顔を赤らめるのを。
短冊に書いた願いが『彼女の笑顔が見たい』だったということも…。
* * *
短冊に本当の願いは書かないそうなので、エステルの願いも、ユーリの願いも少し小さめのものにしました。
リクエストの星、七夕、ユリエス、ほのぼの、達成できたでしょうか…?
あまみやさんお誕生日おめでとうございます!あまみやさんの一年がいいものであると願って。
水影 光 2010/07/16
※あまみやさんのみお持ち帰り可とします。
2010年のあまみやさんの誕生日に捧げたものです。
あまみやさんのみお持ち帰り可です。
[2010年 07月 16日]